「予兆 散歩する侵略者 劇場版」 ホラー版「散歩する侵略者」
のっけから「黒沢清臭」がプンプンしていてワクワクする。
こんなに濃密な黒沢清臭を嗅いだのは久しぶりな気がする。
あの、僕たちの大好きな黒沢清が戻ってきたような気さえする。
ココ何作か、有名な原作を映画化することでメジャーへの道を探っていたような印象のある黒沢清作品の中では、久々に「ああ、自分のテーマに出会ったんだな、、、」という印象。
脚本が高橋洋というもの大きい。
高橋洋が脚本を手がけた映画でつまらなかった試しがない(自ら監督した作品以外で)。
やはり脚本家としての高橋洋は、日本映画界の最重要キーパーソンなのだろう(特撮マンとして日本映画の最重要キーパーソンだった樋口真嗣が監督に昇格した途端ダメダメなのとちょっと似ている)。
もっとも本作にも原作はある。
要は「散歩する侵略者」のスピンオフなのだ。
しかし、一般にいうスピンオフよりは、アナザーストーリーに近い。
「散歩する侵略者」と同じ世界観の中で、オリジナルなストーリーを展開している。
「人間の精神を乗っ取る侵略者」「侵略者を導くガイド」「概念を盗む能力」などの「散歩する侵略者」にも出てきたアイデアを使って、別の場所で起きていた事件を描く。
侵略者があの3人だけな訳ないもんね。
きっと、他にもいっぱいいたんだろう。
で、ですね。
あんまり言いたくないけど、「散歩する侵略者」より全然面白いですぅ、、、
メインアイデアは借り物だが、借り物を利用して黒沢清と高橋洋が紡いがストーリーの方が、全然良く出来てる。
ヘタするとこっちのほうが元みたい。
やはり主人公の夫を侵略者本人ではなく、「ガイド」にしたのが正解だったのだろう。
コレによりおめでたい人間賛歌だった原作が、一気にホラーになった。
主人公の夏帆ちゃんが、事態に気づく前にひとり、「概念」を奪われて異常をきたすキャラを配したのもさすが。
ホラーの脚本ってこういうもんでしょ。
原作とは、もう、アマチュアとプロ位の差がある(まあ、「散歩する侵略者」はホラーのつもりじゃないんだろうけど)。。
陰鬱な空気感のなかで、坦々とした日常の連続に突然ヒドいことが起きていく黒沢演出にシビれる。
カタストロフに向けて盛り上げていく演出法もあるが、「敢えて盛り上げない」のが黒沢清なのだ。
コレは、名作「運命の訪問者」以来(ってオレが気づいたのがそこだってだけだけど)の、スイッチが切れたように倒れていく人間の描写も満載。
ああ、オレは今黒沢清映画を観てる、、、
夏帆ちゃんも、買い物しちゃあピョンピョン飛び跳ねてるだけのオンナかと思ったら、すっかり大人の演技派女優になってたんだねぇ、、、
か弱そうな雰囲気の中に、映画全体を支える「強さ」を表現できている。
ラストにちょっと銃を撃つシーンが有るのだが、舞台が同じ廃工場ということもあって、「運命の訪問者」の哀川翔かと思ったというくらい、いざとなると(愛する夫の危機に瀕すれば)強いオンナを演じきっている。
あと、特筆すべきは「寄生獣」に続いて「人間のフリが出来ているつもりで全然出来てない宇宙人」の役を演じている東出昌大だろう。
黒沢清も絶対「寄生獣」を観てこの役をオファーしたに違いない。
「人間のフリが下手」な役で東出昌大意外考えられないくらいハマり役。
この映画の「不気味さ」は東出昌大じゃなかったら半減していたのではないか。
このヒト、ホントに人間なんだろうか。
夏帆ちゃんの役が「特別」な人間であり、なぜ「特別」なのかの説明がないのは、この脚本の瑕ではあると思う。
が、おそらくは侵略者は世界中に大量に来ているはずで、それぞれのガイドが悲惨な目にあっているであろうことが予想され、その中で、たまたま「特別」な女性に救われるガイドを描いているのだ(そのほうがドラマ性が有るから)と、思うことにする。
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