「完全な遊戯」 全盛期の日本映画恐るべし
実を言うと「仁義なき戦い」シリーズの武田明、つまり小林旭の大ファンなのだ。正直言ってコレ以外の小林旭はよく知らないのだが、シリーズ後半を支える山守組若頭、武田明のカッコ良さは尋常ではない。完全に菅原文太を食ってしまい、4作目などはほぼ、武田が主役ではないか。
そんなわけで小林旭の若いころの映画を、機会があれば観てみたいと思っていたのだった。
一応シンタローの原作ということになっているが、コレは全然違うハナシだな。
当時大人気だったシンタローと太陽族にあやかって、舛田利雄監督と脚本の白坂依志夫が好き放題やっている感じ。
正直言ってセリフはさすがに今の耳で聞くとクサくてたまらなかったり、なんでそんなことで登場人物が大笑いするのかわからなかったりの連続だが、当時の貧弱な通信網を逆手に取った作戦でノミ屋を騙すシーンまでは、あまりのテンポの良さ、スリリングさにクサがっている暇もない。
とにかくここまでの面白さは、テンポの良さ、カメラワーク、歯切れのよい演技があいまって、今時のハリウッド映画でも敵わない出来なのだ。
「邦画なんてつまらなくてセンスもない」と言うハナシはよく聞くが、つまるところこの頃までの娯楽映画のメソッドが、テレビの台頭によって映画界がポシャったことによって伝わっていないだけなのだ。テレビが一般家庭に普及する60年代半ばまでは、日本映画こそが世界のトップを走っていた事実を、小林旭主演の娯楽映画一本でまざまざと思い知らされる。
「これからどうする?映画なんてどうだい」
「イヤよ」
「ダンスは?」
「それもイヤ。そうだ!あそこならいいわ!」
と言う会話の後、イキナリ遊園地のコーヒーカップの遠景が映るカッティングの呼吸など、今の日本映画では到底期待出来ない鋭さを見せつつも、映画はいかにも日本映画らしいジメッとした、ビンボ臭いハナシになっていく。
あの、カラッと乾いた前半が嘘のようだ。
曲がりなりにも文学作品が原作と謳っているのだから、ちょっとは文学っぽくしなきゃと思ったのだろうか。イヤ、コレもまた、舛田利雄監督と白坂依志夫の本領なのだろう。彼らもまた、日本人には違いないのだから。むしろ、このジメッとしたハナシを恐るべきセンスの良さで展開できる才能に驚くべきなのだろう。
「やっぱり壮ちゃんは仲間だな」
「でも、ホントは仲間じゃないんだよな、、、」
この省略の効いた演出には、ほとんど戦慄さえ覚えた。
侮る無かれ、日活の娯楽映画を!!JUGEMテーマ:映画