「キマイラ 14 望郷変」格闘伝奇SF
ワタクシ空中さんは洋の東西を問わず、いつ終わるとも知れない物語をいくつも読み続けている。なんだかいつの間にか読んでいる小説のほとんどが「ナンチャラカンチャラ 第〇〇巻」だの「△△編」ばっかりになってしまったような気もする。
そんなわけで大長編の中の1巻を逐一扱うのは予想と思っているのだが、あんまり面白かったのでヒトコト言いたくなってしまった。
前巻でキマイラ世界唯一のつっころばしヒロイン織部深雪がルシフェル教団に攫われているので、主人公である大鳳吼とその親友九十九三蔵が救出に向かうわけですが、、、
この、二人が救出に向かった地点に、本筋とは何ら関係のない、しかし魅力的な登場人物、龍王院弘が現れた時点で、本筋などどこへやら、あっという間に龍王院弘とフリードリッヒ・ボックの因縁の対決が、延々と繰り広げられるのであった、、、
で、この二人の死闘が、ですね、滅法面白いです、、、
人間同士の肉体のぶつかり合いを、これだけ細密に描写してなおかつ素晴らしい緊張感に溢れているというのはただ事ではない。
獏先生が何十年も追い続けてきた「新しい肉体論」の一つの到達点なのだろう。
何かが完成した、あるいは獏先生が追求してきた文学的営為がついに実を結んだ、と思わせるような迫力に満ちていて読んでいるほうも異様な高揚感がある。
例えば、男性同士のルール無用な肉弾戦には「睾丸」という問題が常に付きまとうが、この問題に対する攻防戦など、新鮮にして衝撃的。
まさに肉体というものを徹底的に突き詰めたものだけが到達できる地点を見たという感じ。
もっともワタクシ空中さんは獏先生のいわゆる「格闘技もの(「餓狼伝」とか「獅子のなんちゃら」とか)を全然読んでいないので、あっちではこういうことが日常的に行われている可能性はある。
そして本書の前半はほとんどこの戦いに費やされてしまう。
本筋と関係ない人物の格闘シーンで一巻の半分使ってしまう、というのもいかにも獏先生らしいではないか。
では後半はどうなっているのかというとですね。
数巻前からチラチラ出てきていた赤須子さんのハナシである。
既に前巻まででシッダールタと修業し、老子と語り合った赤須子さん。
本巻では徐福さんと一緒に秦の始皇帝に会ったりします。
獏先生は徐福伝説好きだなぁ、、、
単にキマイラ化するだけではなく、かなりの長寿(千年単位?)であることも判明した赤須子さん。いよいよキマイラ現象の根幹にかかわる人物であることが分かってきて、「大昔の出来事が現在に繋がっている」という半村良先生以来の「伝奇SF」の神髄を堪能できます。
前半の格闘小説ぶりとは打って変わっていかにも伝奇的な展開の後半。
この辺の構成の妙もあるが、やっぱり獏先生の古代中国を舞台にした伝奇物は面白いなぁ、、、と思う。
結局、獏先生も書いててこれが一番楽しいんじゃないかなぁ、、、
で、結果的にメインストーリーは一っっ歩も進んでまへん。
そろそろ物語を収束させようとしている先からこの逸脱ぶり。
やっぱり、この物語は絶対に面白い。
JUGEMテーマ:小説全般
comments(0), -, pookmark